海くんの声がして、
両手から顔出して振り向くと、
制服姿でリュックを背負った海くんが、少し離れた所に立っていた。
「海くん」
目をこすってから海くんの元に駆け寄ると、
やっぱり栗色の髪がくしゃくしゃっとなっていた。
「どうした?なんで泣いてんの?」
「私......」
その時、廊下の向こうから剣道部の部員たちが、
こっちに歩いてくるのが見えた。
「吉井を待ってんの?」
私は大きく首を振った。
「海くんを待ってた」
海くんは、パッと下を向いて目をそらし、
立ち上がっていた前髪を、くしゃくしゃっと引っ張った。
「帰ろ」
そう言って下駄箱の所に行ってしまった。
一緒に外に出ると、夜空には星が見えて、
もう冬の匂いを感じた。
海くんは何も話さなかった。
ただ、隣を歩いていて、こっちを見ることもなかった。
私も、この気持ちをどうやって海くんに伝えたらいいのか、
わからなかった。
周りの部活帰りの生徒たちの視線も気になるし、
電車でも、周りの乗客が気になるし。
結局、何も話さないまま、
私の家の前に着いてしまった。
家の前に着くと、小さな街灯の明かりで、
海くんの顔が優しく照らされた。
「もう、帰り待ってなくていいよ」



