その時、すぐに海くんの顔が浮かんだ。
海くんの笑った顔
照れて真っ赤になった顔
手の甲を口元にあてる仕草
無造作に外ハネしている栗色の髪
ズボンのポケットに両手を入れて
階段の下から私を見上げて笑った海くん
いろんな海くんの顔が一気に浮かんできた。
【もう会わないとか言われんのかと思った。
すげぇー嬉しい、俺ほんと嬉しい】
海くん………
吉井くんは首を傾げて笑った。
「今、渡瀬の顔が浮かんだだろ?」
「えっ」
吉井くんは、くしゃっと笑った。
「渡瀬に伝えて。
俺、ちゃんと自分に正直に生きるよって。
ありがとうって伝えといて」
吉井くんは一歩近づいて、私の頭に大きな手のひらを乗せた。
「ずっと好きだったよ。
ありがとう、俺を好きになってくれて」
そう言って私の頭を引きせると、ぎゅっと抱きしめてきた。
吉井くんの言葉に、
吉井くんの抱きしめてくる力に、
涙が出た。
「ごめんな.....鈴。
いっぱい泣かせて.....ごめん」
私はぎゅっと目を閉じて、胸の中で首を振った。
「渡瀬なら、俺......諦められるよ」
吉井くんはそっと私を離した。
「俺、渡瀬の言葉に救われたよ。
まるで、類に言われたみたいだった.......
ほんと、感謝してるって伝えて。
じゃあな」
吉井くんはまた私の頭をぽんぽんと撫でると、
下駄箱の方へと歩いた。
「吉井くん......」
「ん?」
吉井くんは靴を履きながら顔を上げた。
「私も.....私も吉井くんのことが好きだった。
でも私、海くんが.....」
吉井くんは小さく何度も頷いた。
「俺たち、友達でいような」
またくしゃっと笑って、吉井くんは向きを変えて、
玄関から出て行った。
廊下にひとり、いつまでも止まらない涙を、
指でこすった。
こすってもこすっても、止めどなく溢れ出てくるこの涙は、
なんの涙なの……
息が苦しいほど、泣いてしまうのは、
なぜ.......
「宇崎」



