御劔 光の風3

デルクイヤに言われたようにナルはカルサを我が子の様に思い、叱ることも褒めることも甘えさせることも全て愛情を持って与えてきた。カルサもナルには本心を伝えていたところもある。

「いずれ国を出る。王位はサルスに渡すつもりだ。」

今より昔にカルサが告げに来たことがあった。このことはハワードには伝えていない、しかし彼も何かしら勘付いていたようにも思えた。それほどまでにハワードもカルサを愛し気にかけていたからだ。

我が子の様に、二人で支えてきたカルサを残してナルは去っていく。

あの時ハワードが解放してくれたようにナルは自らを開放してハワードに口付けた。

光の泡となって実態を持たなくとも会いたかった、会いに行ってもいいと許されて素直に心は彼の許へ向かう。思うままに動くことが許されるならと、ナルはハワードを抱きしめ愛情の証を残したのだ。

二人の身体が離れ、改めて二人はお互いの姿を見つめ合った。呆気に取られているハワードとは反対にナルの表情はどこまでも穏やかで可愛らしかった。

「ハワード。」

ナルの声は魔法の様で、名前を呼ばれるだけでハワードの身体中の細胞が沸き上がるように騒ぎだす。何十年と年を重ねて培ってきた冷静さなどもろともしない程ナルの声には力があった。

しかしそれは別れの儀式でもあった。

ナルの手がハワードの頬に触れる、かき乱された感情で表情が歪んでしまった。なぜ彼女がここにいるのか、なぜ彼女はそんな姿になっているのか、時が経つ程に理解していく。ハワードの変化に気付いたナルは様子を伺うように覗き込んだ。

訴えるように向けられた瞳にナルの瞳も潤っていく。自分のした事に気付かれた恥ずかしさや淋しさから思わずはにかんだ。

何故そんな事をと、ハワードの声が聞こえてくるようだ。

余裕など一気になくなり、逃げ出したい気持ちから反射的に身体を離してしまう。しかしハワードの手は彼女を掴み、それを許さなかった。光の泡となった彼女にも感覚がある、形がある。ナルを掴めた事に二人とも驚いて動きを止めた。

改めて二人の視線がぶつかると切ない気持ちが共鳴し、大きく大きく、もう止めることが出来ないほど膨らんでいく。

今ここにいる。まだナルは存在している。

切なさと愛しさが交じりあい感情はもう名前が分からない程、複雑に渦巻いていた。あまりにも強く激しく動く心、まるでそれを抑えるかのように抱きあう。

触れられた。全身でお互いの存在を感じられた。