御劔 光の風3

「でも私は…ハワードさんのことを忘れようとしてきた。貴方に思って貰える資格なんて私には。」

「そうしなければ生きていけなかった、違うか?」

俯きそうなナルの両肩を支えてハワードは彼女の顔を覗き込んだ。やはりナルの瞳はまた涙を浮かべて悲しそうに揺れている。

「私よりも君の方が辛かったことなんて承知だ。噂でしか聞いたことはないが全てから遮断されていたんだろう、その中でどうしたら自分を守れる?全てを忘れて現実を淡々と生きることでしか守れなかった。違うか?」

ハワードの言葉にナルは勢いよく顔を上げた。どうして分かるのだろうか、そう言いたげな表情は驚きに染まっている。

「でも君は…例え僅かな欠片でも持ち続けてくれたじゃないか。」

無意識にハワードを触れ続けているナルの手を見て彼は微笑んだ。恥ずかしそうに、または寂しそうに、ナルの心情を酌んだ上で言葉を選んだ様子が伝わってくる。

「最初に言ったろう。あの頃の時間に戻りたいと。」

「はい。」

「今だけ、今夜だけでいいんだ。私も…君も十分すぎる程に今の立場を理解している。」

そうだろう。そう目で問われてナルは自然と涙をこぼしていた。

今夜だけ、明日にはもう距離を保つ自分たちに戻らなくてはいけない。過去にも未来にも何もない、占い師と王子の世話役にならなくてはいけないのだ。

二人がこんなにも近付けることは二度とない。

ナルはハワードの服を掴んでいる手に力を入れた。離したくはない、でもずっとこのままではいられない。

いや違う、言葉を変えよう。

いまこの時だけは自由なのだと。

「…私は…!」

そう言うなりナルは部屋の外に繋がる扉に手をかざして反射的に結界を張った。いきなり感じた気圧の変化にハワードは違和感を覚えて目を細める。それが結界だと彼には分からなかった。

「今のは…?」

「結界を張りました。これで誰も…この部屋へは近付けません。」

俯いたままのナルがハワードの疑問に答える。しかしその声はどこか張りつめたような緊張感を含んでいた。