御劔 光の風3

「君が国にその身を捧げた様に、私もこの身を国に捧げた。君と共に歩んでいきたかったからだ。」

穏やかで優しい笑みを浮かべたハワードは改めてナルの手を取り、その形や体温、存在を確かめるように何度も握りしめた。

「約束をしたあの日…うっかり時間を言い忘れたことに気が付いて次の日もう一度君に会いに行ったんだよ。」

その言葉にナルの肩が跳ねる。約束をしたその日の午後には既にもうカオの部屋にいたのだ。

「そうしたら騒ぎになっていた。君が…連れ去られたと。言葉は悪いが少なくとも君の同僚たちはそういう言い方をしていたよ。私に状況を教えてくれたのはフレイク殿だった。彼女は泣きながら私に言ったよ。ナルがお后様にさらわれた、とね。」

ハワードは遠い記憶を思い出し、静かに目を閉じた。

「どれだけ君を探しても…どこにもいない。周りはどうにか君を助け出そうと策を練っているが取り付く島もないと嘆いていた。私は信じられない気持ちで約束の日にあの噴水の前に行ったんだ。…もしかしたら君が現れるかもしれないと。現れた時は君を連れて国外でもどこでも逃げようとさえ思っていた。」

どこから取り出したのか、ハワードは首飾りを手にすると当然の様にナルの首元に手を回してそれを付ける。微かに耳に入った金属音にナルはようやく状況を理解した。

「…あ、あの。」

「結婚してくれと、そう言うつもりだったんだ。」

彼の声が震えていたのは気のせいではない。涙で視界が揺らぐナルにもそれはハッキリと分かった、ハワードもまた悔しい感情を押し殺してきたのだ。

「国に身を捧げたなんて聞こえはいいが実際の私はそうじゃない。ずっと狙っていたんだ。君を取り戻す瞬間を、あの后を陥れる瞬間を!君以外にも犠牲になっている人物は他にも沢山いた、私は后を許せなかった!」

「ハワードさん。」

「君はきっと…泣いていると思ったから。」

涙でぬれた頬にハワードの大きな手が触れる。あまりにも優しくて全てを委ねたくなるような温かさはあの頃切に求めたものだった。

「…涙なんてとうに枯れていたわ。今この時があるのなら…十分に満たされる。私はもう救われました。」

ハワードにかけられた首飾りを手にして幸せそうに微笑むナルは満たされた顔をしている。おそらくこれは十数年も前に用意された古いものなのだろう、ハワードの思いも形もナルには十分すぎるほどの幸福だった。

「頂いても…いいんですか?」

「勿論だ。」

「ありがとうございます。大切にします。」