御劔 光の風3

取り戻したくても取り戻せない時間、今になってこんなにも悔やまれて仕方ないなんて皮肉だろうか。奪われたなんて思いたくも無かった。惨めになるだけじゃないか、そう自分を奮い立たせてきたのだ。

身体に感じる温もりにとてもじゃないが幸せを感じる余裕は無い。

自分の中の溜まり過ぎた感情を吐き出すことに精一杯で、落ち着くまでナルはずっとハワードの腕の中で泣き続けた。

「…ごめんなさい。」

どれほどそうしていただろうか。鼻をすする音も聞こえなくなり、ただ放心状態の様になってからも暫く動けなかった。大の大人が二人抱き合ったまま静かに時間が流れていくのを感じている。

ようやく頭と感情の整理がついたナルの口から出たのは謝罪の言葉だった。

「どうして謝る?」

「時間を取らせてしまったわ。…ご家族も心配されている筈よ。」

「家族?」

「貴方の奥様とか。」

そう、ナルが冷静になって考え付いたのはハワードの置かれている状況だった。

自分はあれから殆ど誰とも関わることなく暮らしてきたがハワードは違う。貴族である彼には世間の目もあり、年頃になれば早々に結婚をさせられるのだ。

ハワードは素敵だった。デルクイヤの世話役まで地位を上げた人物なのだから縁談も多く寄せられただろう、そうでなくても新しくいい人を見つけたかもしれない。

どちらにせよ自分とは違う誰かと寄り添っていることには違いない彼の今の立場を案じたのだ。

「…君らしいな。ここまで来て私の身を案じるなんて…少しも変わっていない。」

「笑いごとではないでしょう?こんな夜更けに私の所で長居をしていたなんて誰かに知られでもしたら大変な事よ!?」

「そういうところも。あの頃のままだ。」

クスクスと笑うハワードに怒りを覚えナルは身体を起こして彼と向かい合い睨むように見上げた。しかしハワードは楽しそうに笑うだけで危機感というものが全くない。

人が真剣に心配しているのに、ナルはますます面白くなかった。

「ハワード殿…。」

「いないよ。私に妻や子はいない。」

もう一度口を開いたナルの言葉を遮ってハワードは笑みを浮かべたままナルにそう告げる。