御劔 光の風3

疲れているだろうに笑顔を振りまいてナルを迎えるユーセシリアルは言葉の通り幸せに満ちている。そんな彼女の横に眠る赤ん坊に視線を送ってナルは言葉を詰まらせた。

生まれたての赤ん坊、あどけない顔で眠る赤ん坊を見つめるだけで言い様のない不安に駆られる。

彼女の異変はその場にいた全員に伝わり先ほどとは違う空気に包まれた。

「ナル…?」

「は、はい。申し訳ありません…。」

様子を窺うデルクイヤに上手く反応が出来ず、何に対してか分からない謝罪の言葉が出てくる。胸騒ぎが強すぎてナルは胸元を握りしめた。

様子のおかしいナルにデルクイヤとユーセシリアルは顔を合わせ思いを通わせる。決していい反応でないことは明白だったのだ。

「ナル、構わないわ…言ってちょうだい。」

「この子に何があるんだ?」

覚悟を決めた二人の言葉にナルが揺れた。

「占ってみないとハッキリ申せませんが…困難に満ちていらっしゃるかと。…何か大きな使命を背負っていらっしゃるように感じます。」

不安は現実なものとなり国王夫婦に突きつけられる。二人の視線は生まれたばかりの赤ん坊に注がれ、静かに立ち向かう勇気を育てていった。

「占って貰えるか?」

「…お時間を頂戴いたします。」

人払いをしてナルはユーセシリアルの部屋に陣を作り聖水を皿に注いだ。

波打つ水面に手をかざして光を生み出す。初めて見るナルの仕事にハーブは目を輝かせて見つめていたが、生まれたばかりの幼子を抱えるユーセシリアルや彼女の身体を支えるデルクイヤの表情は強張っていた。

この十年以上、ただ何もしないで過ごしてきた訳ではない。

感覚のみで予感を呼び寄せるだけのナルに占いの法を教えてくれたのは他ならぬカオだった。カオの占い通り、ナルには強い潜在能力が秘められており、術を取得するたびにその力が開花されていく。それはもはや特殊能力と呼ぶにふさわしいほどに成長していたのだ。

「これは…。」

光る水面に映る物を見つめてナルが呟く。そこで見えたものこそが彼が抱えた大きなものだったのだ。

神話に出てくる光の神、その生まれ変わりであろうということ。
彼が背負うものはこの国ばかりではなく、さらに大きなものだということ。
彼の魂には名が刻まれているということ。