御劔 光の風3

ゆっくりと言葉を選ぶように話すデルクイヤの声に耳を傾けている内、ナルの止まったままの全てが動き出しふと口元に笑みが浮かぶ。

王族と言えば后くらいしか知らなかった。どうすれば彼女から目の前にいるデルクイヤの様な人間が育つのだろうかと皮肉も浮かんで心の中に留めておく。

「もう…十年以上も前の話です。」

憎しみも悲しみも全て風化されて今では当たり前になったこの状況に悲観するものは何も無かった。

嘘偽りのない心で頭を下げ続けるデルクイヤを止めるつもりはもうない、これが彼の誠意なのだとしたら受け入れることが許しになるのだろうとナルは考えたのだ。

だってもう、彼女はこの世にいない。

失った時間も取り戻せない。

「きっかけはそうでも…今この時間でさえも貴女は縛られているじゃないですか。」

頭を上げて言われたことにナルはまた言葉を失ってしまった。

デルクイヤの表情は悲痛に満ちている、申し訳ない気持ちで身体がバラバラになりそうなくらいに小さく震えているのが分かりナルは困惑した。確かにナルは、あの日から今までこの部屋に閉じ込められているのだ。

しかしどうすることも出来ない。どうしたいという希望も生まれてこない。ナルは複雑な表情で微笑むしか出来なかった。

「この部屋を開放し改めて貴女を皆に紹介します。そして私たちに力を貸す役目を請け負っていただきたい。国付の占者として、この国がよりよい方へと向かえる手助けをして欲しいのです。」

「手助け…。」

「理不尽な命令を重ねるようで申し訳ありません。でも私にはこうすることしか導き出せなかった。どうか力を貸してください。お願いします!」

「お願い致します。」

再び頭を下げるデルクイヤに沿う様にユーセシリアルもまた改めて頭を下げた。

見目麗しいと聞く新しい王妃の顔より頭頂部の印象が強く残りそうだとナルは心のどこかで冷静に思う。それほどにユーセシリアルは頭を上げようとしなかった。

「…どうして。…どうしてお二人がそこまで必死になられるのでしょうか。」

ナルは率直な疑問を口にする。その言葉に導かれるように二人は顔を上げてまっすぐにナルと向き合った。

この答えだけはちゃんと目を見て話さなくてはいけないと、二人ともが考えたのだろう。それだけでナルは既に心が決まった。