御劔 光の風3

すぐに頭を上げる訳にもいかずナルは頭を下げたまま状況を理解しようと思考を回転させるが、視界に入ってきた光景にその働きは止められる。デルクイヤが床に手をついて頭を下げる姿が下げたままの狭い視界の中に入ってきたのだ。

「デルクイヤ様!?何を…!」

「申し訳なかった…っ!!」

急いで止めようと手を差し伸べるが、彼の掠れた叫び声に思わず固まってしまった。

何を謝られているかが分からない。困惑していると彼の横にいたユーセシリアルも膝を付いて同じ様に頭を下げた。

「本当に申し訳ありません。」

「陛下…お后様…?お、お止めになってください。私には何が何やら…お顔をお上げ下さい!」

ナルの願いもむなしく二人は頭を下げたまま、より深く頭を下げて詫びを続けようとする。

「国王が簡単に頭を下げてはなりません!どうぞ、お顔を…。」

「一人の人の子として頭を下げています。ナル・ドゥイル殿。父と母の無礼を…傲慢さを…身勝手を!私に謝らせてください!」

ナルの言葉を遮ったデルクイヤは頭を下げたまま悲痛の叫びを吐き出した。彼の言葉にナルは目を見開きその身体も思考も固めてしまう。

彼の言い分には身に覚えがあり過ぎたのだ。

デルクイヤの母である女性はもうこの世にはいない、彼の父親である前王もまたすっかり引退してもぬけの殻の様になっているとどこかから聞こえてきた。もう何もすることの出来ない両親に代わり息子であるデルクイヤが詫びようとしているのだ。

一体、何故こんなことに。

「先日…会議を開きました。前王より引き継げるものとそうでないものを見極めようと、私は私のやり方で国に尽くしていこうと皆に伝えました。…その時聞かされたのです。」

貴女の様に無茶な命令でその身を縛られることになった者が多くいるのだと。

デルクイヤの言葉がそのまま心の中に降りてきてナルはその場に座り込んでしまった。

頭を下げたままでも分かる彼女の様子に二人はさらに力を入れて頭を下げる。ナルにはもうそれを止める気力がわかなかった。

「王となった今聞かされた真実に呆然とし、それと同時に今まで気付けなかった自分の視野の狭さに情けなくなります。王子としても出来ることは沢山あった筈だと。自分で気付くことが出来なくとも、助けを求められるような人物に為り得なかった私を恥じてもいます。一概に両親のせいではない、私にも責任があると…迷惑でしょうがこうして謝らせていただきに参りました。」