たとえ了承する返事をしていなくても逃げられない命令だと心のどこかで諦めている自分もいる。現に寮にあったナルの部屋は既に片付けられ、新たに設けられた場所へと荷物全てを運ばれていたのだ。
ちょっと仕事をしてくる、そんな感覚で送り出されたまま戻ることの出来ない道は別世界になってしまった。誰にもこの状況を話せずに誰とも挨拶も出来ずに投げ込まれた状況にただ呆然とする。
何の言葉も発せず途方に暮れるナルをカオは無理に動かそうとはしなかった。彼女もまた言葉を控えてナルの傍から離れない。もしかしたらカオも同じ様な状況で今の立場にいるのではないかと思考が働くまでかなりの時間を要した。
それほどまでに受け入れがたいものだったのだ。
約束をした明後日の日が暮れても、それから何回日が暮れても、ナルが城を出ることは無かった。
やがて后は王子を生みデルクイヤと名付けられる。それこそがカルサの父親となる人物だった。
後に二人目の王子が生まれ、彼はサルスの父親となる。そうして時間は重ねていき、ナルの師であるカオが息を引き取って間もなく后も病でこの世を去った。
デルクイヤは立派に成長を遂げ、文武両道に家臣からも信頼が厚い愛される王子として人気を集めていく。成人を迎え婚約を機に王位を継承し、かつての王は隠居の身となって城から出ていった。
入れ替わるように新たな城の主として入ってきたのがカルサの母となるユーセシリアル王妃、彼女は先代のことを踏まえて特に親交の深い隣国から迎え入れられた王妃だった。太陽の様に明るく大きな愛情を与えてくれる王の妻に相応しい、素晴らしい后の登場に国中が祝いの歌をうたう。
「ナル。失礼するよ。」
「陛下!?お后様まで…!?」
それから暫くしてナルの部屋にデルクイヤ王が后であるユーセシリアルを連れて尋ねてきたのだ。
先代の王は全く姿を見せず寧ろ占者を必要とさえしていなかった。
反して后は頻繁に顔を出しては気分の治まらない様子で延々と話をしていく、その話の中に夫や子供については一切なかったのだ。ただ何かの捌け口にするように利用していただけだろう、そしてこの場所を自分だけの物にすべく誰も近付けさせなかったのだとナルは悟っていた。
正直に言えばデルクイヤの顔を見るのも数える程しかない。そんな彼が手を取り合ったばかりの后と共に、付き人もなくやって来た。一体何事なのだろうと身構えるのも無理はない。
「お初にお目にかかります、ユーセシリアル様。私は占い師、ナル・ドゥイルと申します。」
「…ユーセシリアルと申します。」
まずは挨拶をとナルは姿勢を正して頭を下げる。ユーセシリアルはゆっくりと落ち着いた声で答え、衣の擦れる音でおそらく頭を下げてくれたのだろうと理解した。
ちょっと仕事をしてくる、そんな感覚で送り出されたまま戻ることの出来ない道は別世界になってしまった。誰にもこの状況を話せずに誰とも挨拶も出来ずに投げ込まれた状況にただ呆然とする。
何の言葉も発せず途方に暮れるナルをカオは無理に動かそうとはしなかった。彼女もまた言葉を控えてナルの傍から離れない。もしかしたらカオも同じ様な状況で今の立場にいるのではないかと思考が働くまでかなりの時間を要した。
それほどまでに受け入れがたいものだったのだ。
約束をした明後日の日が暮れても、それから何回日が暮れても、ナルが城を出ることは無かった。
やがて后は王子を生みデルクイヤと名付けられる。それこそがカルサの父親となる人物だった。
後に二人目の王子が生まれ、彼はサルスの父親となる。そうして時間は重ねていき、ナルの師であるカオが息を引き取って間もなく后も病でこの世を去った。
デルクイヤは立派に成長を遂げ、文武両道に家臣からも信頼が厚い愛される王子として人気を集めていく。成人を迎え婚約を機に王位を継承し、かつての王は隠居の身となって城から出ていった。
入れ替わるように新たな城の主として入ってきたのがカルサの母となるユーセシリアル王妃、彼女は先代のことを踏まえて特に親交の深い隣国から迎え入れられた王妃だった。太陽の様に明るく大きな愛情を与えてくれる王の妻に相応しい、素晴らしい后の登場に国中が祝いの歌をうたう。
「ナル。失礼するよ。」
「陛下!?お后様まで…!?」
それから暫くしてナルの部屋にデルクイヤ王が后であるユーセシリアルを連れて尋ねてきたのだ。
先代の王は全く姿を見せず寧ろ占者を必要とさえしていなかった。
反して后は頻繁に顔を出しては気分の治まらない様子で延々と話をしていく、その話の中に夫や子供については一切なかったのだ。ただ何かの捌け口にするように利用していただけだろう、そしてこの場所を自分だけの物にすべく誰も近付けさせなかったのだとナルは悟っていた。
正直に言えばデルクイヤの顔を見るのも数える程しかない。そんな彼が手を取り合ったばかりの后と共に、付き人もなくやって来た。一体何事なのだろうと身構えるのも無理はない。
「お初にお目にかかります、ユーセシリアル様。私は占い師、ナル・ドゥイルと申します。」
「…ユーセシリアルと申します。」
まずは挨拶をとナルは姿勢を正して頭を下げる。ユーセシリアルはゆっくりと落ち着いた声で答え、衣の擦れる音でおそらく頭を下げてくれたのだろうと理解した。



