御劔 光の風3

「ナル・ドゥイル。」

先ほどまでとは違う空気の中で手を差し伸べるように優しい声がナルを呼んだ。顔を上げたナルの目に映ったのは、すぐ前にまで近付いていた占い師カオの姿だった。

「お…初にお目にかかります。ナル・ドゥイルと申します。」

とっさに出てきたナルの挨拶にカオは目を丸くしてふんわりと優しい笑顔を見せ頭を下げる。

「国付の占い師をしております、カオです。突然の無礼を許してください。」

「そんな、カオ様!お顔を上げて下さい!」

「私の配慮が足りませんでした。貴方にまで迷惑をかけてしまったこの罪は…どうやっても償いきれない。」

ゆっくり上げたカオの表情はうっすらと涙が浮かぶほどに苦痛に満ちていたものだった。彼女の身に一体何があって、どう自分が関わっているのか。全てが分からないナルは戸惑いの表情を浮かべて彼女の言葉を待った。

「貴女は自分の能力に気が付いていますか?」

その言葉にナルは目を見開くと、少しの間をおいて頷いた。

「はい。人より勘が働くということであれば身に覚えがあります。」

「もっと強くその力を自分自身でも感じているのではありませんか?たとえば…夢を見るとか。」

ナルは言葉を詰まらせて俯き加減だった顔を上げてカオを見つめる。

未来を予言するような夢を見ることは幼い頃より何度かあった体験だ。しかし誰も信じてくれず、唯一理解してくれた両親には人に言わないようにした方がいいとまで言われた。

その力はナルを孤独にしてしまうであろうからと諭すように言われたことをよく覚えている。

「この国の行く末は危うい。何か打開策はないのかと私はずっと探していました。薄暗い未来に見えた希望の光、その傍に映る貴女の姿を見つけたのです。光を導く貴女の姿に私は希望を持ちました。分かるように今の両陛下には国を支えきれない。しかし希望の種がお后様のお腹に宿ったのです。」

カオの言葉にナルはさっきの二人のやりとりを思い出した。まだ公にはされていないが后のお腹の中には新しい命が宿っている、それは未来の国王になるかもしれない命だ。

「貴女にはもう、お腹の子が未来の国王だと分かったのでしょう?」

「…はい。お二人の王子に出会えるだろうと感じております。」

首を絞められたような感覚とはこのことを言うのだろうか、ナルは考えを読まれ目を泳がせた。