御劔 光の風3

兵士と女官、その関係であればいくらでも接点はあり親交を深めていくのも当然の様に思える。何度となくみられるそうした恋人たちの逢瀬に二人が当てはまっていくのに時間はそんなにかからなかった。

「ナル。今度の非番はいつだ?」

「非番?明後日だけど、どうかしたの?ハワードさん。」

「一緒に出掛けないか?」

「えっ!?あ、は…はい!是非!」

その誘いに顔を赤くしながらもナルは勢いよく喜びの返事をした。そんなに力を入れなくてもいいと笑うハワードにさらに顔を赤くして両頬に手をあてる。

時折言葉を交わすようになって、言葉遣いも親しみがある物に形を変えて。それでもこうやって誘いをするのは初めてのことでナルは喜びよりも驚きの方が早く表面に出てきてしまったのだ。

「良かった。断られたらどうしようかと思った。」

「断るだなんて、まさか!」

「ははは。そうか、安心した。」

まだ勢いの残るナルの言葉にハワードははにかみながら安堵する。自分の言葉の意味を理解したナルはまた顔を赤くして俯くが、ハワードの優しい声によって顔を上げさせられた。

「じゃあ、明後日に。城下の噴水の前で待ち合わせよう。」

「…はい。」

互いに思いは通じている。貴族出身といえど、家督を継ぐ立場でないハワードにとって相手がナルであることはそんなに反対される理由にならないことも分かっていた。

この思いを口にすれば二人の関係はより確かなものになっていくだろう。ハワードにしてみれば先を考えた上でナルに言葉を送るつもりでいたのだと後々に思い知らされることになるのだ。

しかし何の悪戯か、やがて幸せな形を作っていくだろう二人にその機会は訪れようとはしなかった。むしろ奪われたと言っても過言ではない。

その日の午後にナルの許に命が下されたのだ。

「女官ナル・ドゥイル、国付占い師の専属とする。」

それが今の始まりだった。