御劔 光の風3

ただ傍で一緒に笑い合える事の幸せがどれ程大きなものか、それを分かってほしい。傍にいる者が強く願う程に貴方たちはとてつもない大きなものを背負っているのだと、それがどれだけの人を救うことになるのかを感じている者は少なくない。

一人が犠牲になるにしては大きすぎるのだ。

「だからといって自分たちの存在を消すのか?影に撤して、その重荷を更に背負うのはこっちなんだ。素直に喜んで受け入れられる程の余裕もない。そんな器でもないし、後ろめたい事ばかりだ。」

珍しく感情をむき出しにしたカルサが顔を歪ませた。

弱音を吐いているのは自分でも分かっている、しかし古くからの自分を知るレプリカと話をしていると気を張り、背伸びしていた自分が原点に戻されていくのだ。あの頃の、等身大で精一杯生きてた自分が甦る。

出来るなら本当はずっとやりたかった事があるのだ。

「俺は謝りたい。迷惑をかけた古の民や、その末裔たちに面と向かって…頭を下げて謝りたいんだ。自己満足だと分かっていてもその気持ちが常にある。」

ずっとカルサの心の底にあった気持ち、本来なら謝らなければいけない相手から力を貰い補佐までして貰っている状況は居た堪れなかった。自分を慕い力の限りを尽くしてくれていることに恐縮するばかりだ。

「俺はそんな偉い人間じゃないのに…支えようとしてくれる皆の優しさが辛い。俺はあの女の…。」

言葉に詰まりカルサは視線を下に外した。それは後ろめたさを表している。

「玲蘭華と俺は同類だ。」

握り締められた拳にさらに強く力が加わった。

脳裏に深く刻まれた太古の残酷な出来事は、時を越えても彼らを苦しめ続けている。間接的に、時には直接的に特殊能力という形で彼らを戒めている。

本当なら長い年月を経て進化を遂げ、古の民の持つ力は世界に馴染んでいっただろう。それをいきなり個々に未来へ飛ばされ、生きていかなければならなくなった。

どれほどの苦労か想像もつかない。それを考えるだけでカルサは申し訳なさが溢れ出して自分を責めずにはいられなかった。マチェリラの話を聞くに彼女だけが特別な状況では無かった筈だと思ったのだ。

現にこの国でさえも特殊とされているのだから。

「世界の歯車を狂わせた女、俺はその場にいたにも関わらず止める事が出来なかった。それだけでも罪は重い。それに狂った歯車をこれ以上狂わせないようにする使命がある。」

苦しみが声と表情に滲み出ていた。まるでつぶし合う様に強い力で組み合わせた手が口元で怒りに震える。

「それがヴィアルアイを倒すという事ですか。」

付け足すように声を出したのは千羅だった。カルサは何も答えずに目を閉じる。