「めんどくさいねぇ、お嬢様って」
「左様でございますね」
本当はそう思ってないくせに。
手で何度も上に投げ上げてはキャッチを繰り返しながら、悪態をつく。
と同時に、内心色々なことを納得していた。
───貴方なら、あのクラスでもきっとうまくやっていけるわ
───頑張れよ
校長先生と更科先生の言葉の意味。
一般家庭の人が担任である意味。
(確かにいい家の人はこんなピリピリした空気に対する耐久能が格段に低そうな気がする)
「ま、頑張るしかないか」
そう言って伸びをしたら、本音か嫌味か、沙希は「それでこそ鈴様です」と大きく頷いた。
「それはそうと鈴様」
「ん?」
「先ほどは、庇ってくださってありがとうございました」
「へ?」
なんのこと?と振りかえって沙希の顔を見直す。
彼はまっすぐにあたしを見ていたけど、珍しくあたしより先に目を逸らした。
そのむかつくぐらい整った横顔を見つめて、さっきの自己紹介のことだと気付く。
あぁ、確かに沙希を庇ったかも。

