「ちょ、沙希!!」
「早くしてください。いくら貴方が思ったより軽くても長時間は持ち上げられません」
沙希が持ち上げるために触れている脇の下が変に熱く感じる。
男の人にこんなことをされたのは初めてで、かぁっと顔が火照ったのを誤魔化すためにあたしは首を高いコンクリートの向こうに向けた。
緑色の芝生の絨毯に埋もれている、美味しそうなチョコ色をしたふわふわの塊。
「タルト!」
名前を呼ぶと、タルトは耳をピクリと揺らしてからすぐに尻尾をふりながらこっちに来た。
真っ黒なビー玉のような目にあたしの顔が写り込んでいる。
「行ってくるね」
「ワン!」
手を振って見せたら、分かっているのかいないのかタルトはいい子に高い声で返事をした。
タルトが見る最後のあたしが笑顔であるように自分の最上級の笑顔を作ると、沙希に「ありがとう」と告げる。
・・・うん、たとえ皮肉のように両腕を振られていたってお礼くらい言うよ。
「もういいのですか?」
「うん、どうせどれだけいたって満足しないし、約束の時間にも遅刻したくないし」

