大好きなお母さんの匂いとぬくもりに包まれながら、あたしもちょっとセンチメンタル気分で鼻の奥がつんと痛くなった。
最後に抱きしめられたままのあたしの所に来たお父さんは、ただ一言、
「迷惑かけるんじゃないぞ」
と言った。
お兄ちゃんのせいでぐちゃぐちゃになった髪の毛をお父さんが優しく手で梳いてくれる。
大好きな両親の愛を一身に受けているようで、心地よさに目を閉じた。
「あ、タルト」
家族と親友に順に癒されていく中、最後に脳裏によぎったのは我が家のペットのタルト。
あたしはお母さんの胸の中から抜け出して、塀に手を掛けてジャンプする。
本当は腕に力を掛けたかったんだけど、一瞬腹筋にまで力を入れてしまったらさすがに痛みが走ってただのジャンプに終わってしまったのだ。
これじゃぁタルトが見えないじゃないか、と高い塀を睨みつける、と
「うわっ!」
「おや、意外と軽いんですね」
ふわりと舞うように体が宙に浮いて、声を上げると同時に下から感心するような声音と嫌味な言葉。

