「ふむ、じゃないし!遅刻したらどうすんの!」
「そうですねぇ、トラックではスピードも出せませんし」
「沙希がくだらないこと言ってたせいでのんびり家族と挨拶も出来ないじゃん!」
抗議の言葉も、「人のせいにしないでくれますか?」と優雅に肩をすくめた沙希によって一刀両断。
もちろん、その行動があたしの神経を逆なでするわけで。
「~~~っ!バカ沙希!」
「知っていますか、鈴様?バカって言う方がバカなんですよ」
「だったらさっき顔に書いた沙希もバカってことじゃん!」
「私は口にしていませんから」
「揚げ足とらないでよ!バーカバーカ!」
「だから、私の言ってることを聞いていましたか?」
「2人とも、いい年して小学生みたいな会話しないでよ」
相変わらず冷静に仲介する由美の声。
いつもなら「由美も味方してよ!」と言うのがあたしで、そして今も例外なく言おうとしてふり返ったんだけど、
・・・由美があんまりにも優しく笑ってるから声が出なくなった。
一瞬固まってからゆっくり視線をずらせば由美の向こうでお母さんもお父さんもお兄ちゃんも同じように優しく、そして少し切なそうにあたしを見ていて。
背景になっているオレンジ色の夕日の効果もあって、『あぁお別れの時間だ』と漠然と感じた。

