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「聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない!!」
次の日、あたしは言われていた通り無事に退院することができた。
一応転校の挨拶ということで、少なからず絡みのあった友人たちの間をめぐって帰宅したあたしは、その光景に一瞬呆然とすることになる。
そして目の前に山積みになった段ボールを指さして、あたしは沙希に詰め寄った。なう。
体はあたしから引くようにのけ反らせつつ、それでも相変わらずの顔を微塵も動かすことなく「言ってませんでしたか?」とシラを切る男にあたしはもはや声も出ない。
「あらー、沙希さんからお母さんは聞いてたわよ?」
「お父さんも聞いてるぞ」
「俺も聞いてたぜ?」
「分かってるだろうけど、私も聞いてたからね?」
そんなあたしの背中に掛かる4つの声に、あたしはただ口をパクパクしてるだけ。
そして、今なら視線で人を殺せるんじゃないかと思えるくらいのありったけの怒りを込めて無言で沙希を睨みつけると、さすがに沙希は顔を逸らした。
「~~~っ!!転校ついでに神谷さんちに引っ越すなんて!あたしホントに聞いてないからね!!」

