「兄さんが家を出たときは、寂しい気持ちもあった。
でもそれ以上に、兄さんが母さんの暴力や父さんの威圧感から解放されるなら、
それが一番いいことなんだって・・・安心したりもした」
「そっか」
「・・・ただ、一人になった家はすごく息苦しくて。
兄さんはもう家の人間じゃ無いはずなのに、
いつだって『沙紀は』『沙紀より』『沙紀だったら』って比較されて」
両親の期待を一身に背負う、財閥の“一人息子”。
誰から見られるときも神谷という目でしか見られなくて、
いつだってその視線がプレッシャーになる。
体裁を守るためにいつだってすべて結果を出して当然の世界で生きることはどんなに苦しいだろう。
たった数ヶ月しかいなかったあたしでもその“神谷”の重さを体感してたから、
すべては分かってあげられなくても想像は出来る。
龍世君はいつも笑顔で、努力も見せずにこなしていたから気付かなかったけど───
やっぱり、その重圧は苦しかったんだ。

