「“僕だって辛かったんだよ”」
「え?」
「“神谷って名前が付いて回るのなんて嫌だ。苦しい。出て行けた兄さんが羨ましい”」
「・・・」
「・・・そう言ったら、鈴ちゃんは、僕を助けてくれた?」
そんなことを言われても、と戸惑ってしまう。
龍世君がどうしてそんなことを言うのか、それが本音なのかあたしを試しているのか、なにも分からなくて。
何より一番あたしを動揺させたのは、龍世君が沙紀のことを『兄さん』と呼んだことだった。
黙り込むあたしなんて気にもせず、彼は言葉を続けた。
「兄さんのこと、別に嫌いじゃなかったんだ」
「・・・」
「むしろ好き、だったと思う。
かっこいいし、頭も良いし、スポーツだって出来るし、尊敬してた。
だから、母さんが兄さんに暴力振るってるのが、すごく嫌だったんだ」
龍世君が話してるのは、まだ沙紀が家にいる頃の話だってことにやっと気付いた。
初めて吐き出してくれる彼の思いを受け止めたくて、
あたしは「うん」と答えた。

