どうして沙紀がお礼を言うの?
そう聞こうとして顔を上げれば、一瞬だけ穏やかな沙紀と目があって、
けれどすぐにまた彼の腕の中に戻されてしまった。
「女々しいかも知れないけどな、
俺、絵を描くときには母親を思い出してたんだ」
「・・・うん」
沙紀は、少しだけ言いづらそうだった。
彼があまりに強く抱きしめるから背中に腕を回せなかったけど、
代わりに少しでも落ち着けてあげたくて彼の胸に添えた手でぽんぽんと叩く。
想いが伝わったのか、小さく「ありがとう」と呟いて彼は話を続けた。
「生きていたらどんな風に俺を愛して、守ってくれたんだろうとか考えて。
何で俺を置いて死んだんだって怒ったり、やっぱりいないことが寂しかったりして。
・・・そんな想いを、全部ぶつけて描いてた」
「・・・」
「俺にとって、あの絵は“母親”だったんだ」

