「そうは言っても母親の目を盗んで描いてたから、簡単には上達しなかったけどな」
「・・・うん」
「毎日毎日、少しずつ少しずつ、時間を掛けて仕上げた。
だから、絵を描いたって言っても、数年かけて本気で仕上げた作品はたった2枚だった」
2枚、とあたしは口の中で小さく反復した。
なんだろう、何かが引っかかった気がしたんだ。
首を傾げたあたしに沙紀は少しだけ笑った。
「高校を出てすぐに、俺は家を出た。
警察官採用試験に合格して、警察学校に入り、
そしてすぐに昇級して、俺はSPになった」
「うん」
「その家を出るときに、描いた絵の1枚を展覧会に出したんだ。
入賞したらしいけど、警察学校が厳しすぎて見に行けなかったんだよな」
そう言って沙紀はちょっとだけ苦笑して見せた。
「それで、」と話を続けられたから、
さっきから感じている小さなひっかかりを無視してあたしは沙紀の話にさらに耳を傾ける。

