ただ縋るように沙紀とあたしは抱きしめあった。
静寂につつまれた病室で、さっきまでの出来事がまるで嘘のようだとさえ感じた。
視覚も、聴覚も、嗅覚も、触覚も、すべてが沙紀だけを感じてる。
幸せなはずなのに、こんなにも気持ちが苦しいのは、
タイムリミットが差し迫ってる現実を頭の片隅で理解してしまっているからだ。
「・・・鈴」
どれくらいそうしていたのだろう。
沈黙を破ったのは、沙紀が呼ぶあたしの名前だった。
「───ごめん」
「・・・なんで謝るの」
「・・・色々」
ぎこちない会話だった。
沙紀の謝りたい気持ちも痛いほど分かってるのに、
謝られたらすべてが終わるようで認めたくなかった。
「・・・謝るために、時間作ったの?」
「違うよ」
沙紀の手がそっとあたしの頭を撫で、
そして両手を肩に掛けるとゆっくりと身体を離した。