「───・・・龍世」
縋り付くように沙紀のスーツを掴むあたしの頭の上で、静かに大好きな人の声がした。
その言葉にはいつもの“様”がなくて、その否応がない現実にじわりと涙がにじんだ。
「30分でいい。・・・鈴と、二人きりで話がしたい」
30分なんて短すぎるよ。
あたしはまだ、ずっとずっとずっと、あなたと一緒にいたいのに。
「───わかった」
「ありがとう」
「外にいる。何もするなよ」
「あぁ」
二人の声と、扉の閉まる音。
あたしは音のみの世界で、ぐるぐる回る思考を落ち着けるのに必死だった。
苦しい。
苦しい。
気持ち悪い。
───誰か、あたしをこの世界から連れ出して。
「鈴」
そんなあたしの願いが聞こえたかのように、ふわりと大好きな匂いがあたしを包んだ。
優しい声があたしの心をそっと撫でた。
愛しい手があたしの身体を強く包んだ。
【やっぱり、あなたなしじゃ生きられないよ】
(彼の傍にいたいとこんなにも願ってるのに)
(それはそんなにわがままな願いですか?)