沙希の手がバラの花びらを撫でるように滑る。
神谷先生からいただいた見るからに高そうな花瓶に挿してある花たちは、沙希によってそれはそれは絶妙に美しいバランスに生けられていた。
───そう、だから悔しいほど分かっている。
この男は、こんな細やかな部分にまで完璧で、そしてだからこそその言葉に嘘偽りなどないのだと。
「───」
「・・・はいはい、分かった、分かりましたー」
どこからともなく飛んできたナイフを右手の人差指と中指で挟むようにキャッチした沙希の動作は流れるようにあまりに自然。
そんな“慣れ”を見て、諦めざるを得ない。
こんな光景に声すらあげなくなったあたしは、もう元の生活とは違うのだ。
「あたし自身、由美とかを危険に合わせたくないしねー」
そう言いつつもぞもぞと上半身を起こし、そして両手を天井に伸ばして「んー」と身体を軽く引っ張る。
もちろん、お腹がつらない程度にだから、ほとんどフリだけど。
ナイフを白いハンカチに包み、背広の胸ポケットにしまう沙希を見て、あのポケットにはどれくらいの凶器が入ってるんだろうなんて思った。(銃刀法ってなんだっけ・・・)
「本当に鈴様は、聡明な方ですね」
「っていうか、前々から思ってたけど、アンタってあたしに難しい言葉使うときって大抵あたしのことバカにしてるよね」

