「・・・っ、失礼します」
俺はそう言って、走るように龍世様の横をすり抜けた。
「ねぇ、沙紀!」
すぐに声を掛けられて振り返る。
階段を下りかけた俺を、彼は腕を組んだまま見下ろしていた。
「どうしてそこまで鈴ちゃんを苦しめるの?」
「・・・」
「お前の存在で、鈴ちゃんがどんどん傷ついてってることくらい
───ううん、これからも傷つけることくらい、分かってるんでしょ?」
もしかしたら、龍世様はもう全てを知っているのかもしれなかった。
一瞬だけ、言葉に詰まってしまう。
彼が口にすることはいつだって真実で、俺が目を逸らしていた現実だった。
今俺が彼女を求めるのは間違いなく俺のエゴで、
彼女の気持ちに甘えて、
何も考えてないのかもしれない。
だからって、
「アイツをお前に渡すよりはマシだよ、龍世」
そう一言答えて、俺は今度こそ振り向かずに走った。

