● Side:沙紀 ●
旦那様からの話が意外と長引き、俺は慌てて鈴の部屋に戻った。
「遅い!」と口を尖らせているだろうか。
それとも「おかえりー」とのんびり雑誌でも見ているだろうか。
いずれにしても可愛い彼女の姿を想像して、くすりと一人笑みが漏れる。
どうしたって、少しでも早く彼女の顔が見たいのだ。
「鈴様」
部屋のドアを開ける。
・・・ただ、部屋はもぬけの空だった。
「・・・鈴?」
ドアを閉じて、呼びなおす。
けれど彼女の姿が見えないことはもちろん、彼女の声は聞こえもしない。
もちろん、風呂に入ってる気配もしない。
あまりに静寂なその部屋に、なぜか嫌な予感がした。
「・・・っ」
誰かに誘拐されたのだろうか。
そんな考えが頭をよぎる。

