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その日は、家に着くまで沙紀と会話をすることはなかった。
今、あたしの部屋に二人きりになって、やっと彼が口を開いてくれたから。
ベッドであたしの隣に腰掛けて、前のめりに両膝にひじをつきながら、
沙紀は地面を見つめている。
「・・・杏華様は、前に俺がSPとして仕えてた人なんだ」
吐き出すような沙紀の言葉に、あたしは「やっぱり」と思った。
なんとなくそんな気はしてたし、
今沙紀と話すまでの間に色んなことを考えていたから特に動揺はない。
「うん」と答えると、沙紀はまた少し沈黙してから口を開く。
「ただ、彼女が日本を発つ時、俺は切り捨てられた」
「・・・」
「理由も知らないまま、“いらない”とはっきり言われた」
沙紀がこんなに言葉を選びながら話すのは珍しい。
あたしが「ゆっくりでいいよ」と彼の背を撫でると、
「ありがとうございます」と沙紀は言った。
「・・・それまで、俺はSPという仕事にすごく自信を持ってたんだ」
「うん」

