「───鈴の、言いたいこともわかるのよ」
「うん」
「ただ、あたしはこれをやめることは出来ないの」
「どうして?」
マナは少し苦しそうに眉間に皺を寄せた。
彼女にしては、珍しい表情だ。
それこそ、あたしが初めて見ると感じたほどに。
あたしが驚いていると、
少し沈黙してから「鈴は知らなくて当然なのよね」と小さく呟く。
その言葉の意味がよく分からず「え?」と聞き返した。
マナは覚悟を決めたように一人頷くと、あたしを真っ直ぐに見る。
「もうお一人この教室にはいらっしゃらない方がいるの」
「龍世君みたいな?」
「そうね、留学と言えば留学かもしれない・・・ただ、留学と違うことは、いつお戻りになるかが分かっていないことなの」
へぇ、やっぱり金持ちになると留学とか当たり前なのかな。
ただぼんやり納得していたけど、
すぐにその話が今の流れとどういう関係があるのかという疑問が湧く。

