部屋の中にはもう龍世君も、さっきのSPもいない。

それを確認して、あたしは振り返って廊下にいる沙紀を見る。

さっきまであんなに沙紀に会いたかったのに、会ったら恥ずかしさで全然喋れなくて。

なのに今、沙紀が仕事に行ってしまうと思うと・・・喋ってなかったくせに、なんだか寂しい。



「・・・」



あたしは、無言のまま沙紀を見上げた。

そのあたしの顔を見て沙紀は苦笑する。



「───そんな顔を見たら、行きたくなくなってしまうでしょう?」



言葉と同時に、沙紀はすっと体を部屋の中に滑り込ませる。

そして後ろ手にドアを閉めたことを確認すると同時に、

その手はあたしの頬を撫でた。

沙紀の顔がすっとあたしの横に近付き、耳元で感じる熱い吐息。

ぞくりと背筋が震えたのと、彼の低い声が鼓膜を震わせたのは同時だった。



「すぐに仕事を終わらせて来ますから・・・イイコで待ってろよ」





【オオカミに捕まった赤ずきんちゃん】





(こんなドS男に恋をしたのが、一番の災難かもしれない)