「はいはい、じゃぁ二人とも用は済んだかな?
僕はそろそろ出張に行かないと本当に遅刻してしまいそうだ」
神谷先生は腕時計を見ながら立ち上がる。
そうだ、先生の出張を引き留めていたんだっけ。
「はい、手間を取らせてすみませんでした」
沙紀がそう言って頭を下げるから、あたしも慌てて真似して頭を下げる。
「失礼します」という沙紀の言葉を合図に部屋を出ようと引き返し、
ドアを開けたところで先生は「長瀬」と彼を呼んだ。
「今度こそ、仕事はこなしなさい」
二度目はない、とその言葉に込められていた。
沙紀は顔だけ振り返ると、強気に口角をあげて答えた。
「大丈夫です、もう離れないと約束しましたから」
───“俺から一生離れるな”
沙紀が言った、あの言葉を思い出す。
あれは、夢じゃなかったのかな。
「それは安心だ」
沙紀の返事に神谷先生が満足そうに笑ったのを見て、
「失礼します」と沙紀はもう一度頭を下げて扉を閉めた。

