「いい、それでいい・・・そこから動くなよ。一歩でも動いたら、引き金を引くからな」
かなり余裕を無くしてきた犯人は、あたしの方を向いたままジリジリと後退していく。
まずい、とすぐに思った。
剣道は間合いの競技、少しでも距離が出来れば成り立たなくなる。
まだ剣道としての間合いが成り立ってる今・・・勝負は、今しかない。
どくん、どくん、と、身体全体の脈が響く。
それはまるで身体全体が心臓になってしまったかのようで、
あたしは心を落ち着けようと大きく深呼吸をした。
そして、足にぐっと力を込める。
───大丈夫?
そんな声が頭に響いたのは、その瞬間だった。
───本当に、マナを助けられる?
───失敗したら、彼女は死ぬんだよ?
それは、自分自身の声。
あたしは、いつもピンチの時にこんな弱気な自分が芽生えてしまう。
だから、依存して、誰かのせいにして、目を背けて、逃げて、生きてきた気がする。
あたしは、ゆっくり瞳を閉じた。

