マナの言葉に、あたしは辺りを見回す。
少しホコリのたまった、グレーのコンクリートの部屋。
その内部であるここは積み上げられた段ボールで敷き詰められ、
壁には無数の鉄骨らしきものが立てかけられている。
あたしたちはその一角で身動きが取れないけれど、近くには割れたボトルやら碇やら。
・・・碇?
「もしかして・・・」
その存在に気付いた後、あたしは目を閉じて耳を澄ませた。
うっすらとだけど、波の音が聞こえる。
それからボーッという蒸気の音・・・これ、映画で聞いたことがある。船の音だ。
「───港?」
あたしの答えに、マナは「ご名答」と答えた。
「でも、港だから、何なの?」
「じゃぁ逆に聞くけれど、あなた、誘拐犯の目的はなんだとお思いになって?」
「そりゃぁ、身代金目当てじゃないの?」
お嬢様の誘拐、なんて刑事物のテレビでよく見るけど、9割方はその理由だったと思う。
(他にも偽装工作とか、虚言誘拐とか、ネタは色々あるけどさ)
あたしの答えに、マナは首を横に振った。
それから、「庶民のあなたには知らない世界でしょうね」と言う。

