「そうだ、花火!」
「花火?」
「あの執事さん、うっすらだけど花火みたいな匂いがしたの!」
そのあたしの言葉を聞くや否や、沙紀の顔からすっと微笑みが消えた。
そして、その鋭い瞳のまま、「行きましょう」とあたしの返答も待つことなく教室を出て行く。
「ちょっと!?」
慌てて、あたしも彼を追いかけた。
沙紀は身長が高い分足も長いから、早歩きされるだけで追いつくのが必死だ。
優雅な立ち振る舞いをしている廊下の人達の中で、すさまじい勢いで突き進む沙紀とあたしはすごく異質に違いない。
「ちょ、ちょっと沙紀!どうしたの!?」
「鈴様のおっしゃることが本当なら、嫌な予感がするのです」
「嫌な予感?」
あたしの聞き返しに、もう沙紀は何も答えなかった。
ただひたすら、真っ直ぐ玄関を目指して突き進むだけ。
そして玄関の光が見えてきた頃、マナと執事さんの背中が見えた。
沙紀の足がスピードアップする。
マナと執事さんは何か喋っている・・・ううん、言い争っているようだった。

