だから、「ね、鈴ちゃん」と龍世君はあたしに向けて笑顔を見せたけど、
うまく返事をすることが出来なかった。
「鈴様、差し出がましいことを申し上げるようですが」
そう言って今度会話に入って来たのは、いつもあたしの送迎をしてくれている運転手さん。
珍しい人からの言葉に、「えっ」と驚いて振り返ってしまう。
「野々宮様宅からの帰り道、なにやらお買い物を希望されてはいませんでしたか?」
「あっ、そうだ」
勉強中に、新学期用のノートがないことを思い出したんだった。
あとペンも切れそうだし、お買い物に行きたいって車の中でぼやいていた。
執事さんに頼んでくれるという運転手さんの言葉を、申し訳無くて断ったんだよね。
「・・・沙紀、買い物付き合って」
あたしだってさすがに怒られてばっかりは嫌だし、寄り道しないで帰ってきたんだから。
この空気の中頼むのは気が引けるけど、あたしもあたしなりに反省してる部分はある。
そういう意味を込めて沙紀に伝えると、彼はいつもの微笑みに戻っていた。
「おおせのままに、鈴様」
最近、いつも通りの微笑みにさえむかつくのは、なんなんだろう。

