「ふんふんふーん」



作詞作曲自分の鼻歌を奏でながら、真っ白なキャンバスに筆を滑らせる。

歌にあわせて筆が踊り、浮かれた足並みのせいでラフに揺れる線。

そんな絵が描きたい気分なのだ。



「鈴(すず)、今日はご機嫌だね」



パレットに筆を戻して色を整えている時不意に掛けられた声に、あたしは顔を上げた。

とは言え、声からして誰かなんて顔を見るまでもないんだけど。



「由美(ゆみ)、分かる?」

「私じゃなくても分かると思うけどね」



へへっ、と笑うと苦笑しながらポンポン頭を叩かれた。

由美は、茶髪のボブカットが似合うちょっとボーイッシュな感じの女の子。

校則が緩いおかげで付けているピアスが、その髪の隙間からキラキラと揺れながら見えた。

そんな彼女とは中学校からで、数えて5年間の付き合いになる。

由美はあたしの隣の椅子に腰を下ろすと、視線で「どうした?」と尋ねてきた。

えいっと勢いよく筆をキャンバスに滑らせてみると出来あがった掠れた線のバランスに内心自画自賛しながら、あたしは答える。