ん!!と言ってさらに箸を沙紀に寄せる。
沙紀は、すぐにはぁとため息をついた。
「本当に困った方ですね」
「悪・・・っ!!!」
「悪かったな」、そう言おうとしたあたしの言葉は摘み取られた。
だって、沙紀が箸を持ってるあたしの手を押さえて、その先の卵焼きをぱくりと食べたから。
一瞬沙紀に触れられた手から、一気に全身がかぁっと熱くなるのが分かる。
沙紀がペロリと自分の唇を舐めたのを見て、「なんでこいつはこんな綺麗な顔してるんだ!」と思って心臓が早くなった。
「ど、どうよ」
それをごまかすように問いかけたら、沙紀は「悪くないですね」と一言。
「もっと褒められないのかな・・・」
「───私に命令など、100年早いですよ」
沙紀はあたしの頭をぽんと叩いて優しく微笑んだ。
なんだかその手に、微笑みに、本当は「おいしい」って思ってくれてる気がしてくすぐったくなる。
食べてくれただけでも、十分か。

