「あー、そっか」
後ろ姿を見ながら、あたしは合点が行く。
そうか、ののかちゃんのあの様子ってもしかして・・・
「何に納得されているのですか?」
「うわぁ!・・・ってそっか、沙希。沙希もいたんだよね・・・」
またすっかり沙希の存在を忘れてしまった。
跳ねあがった心臓を押さえるように、長く長く息をついて机にふせる。
「いい加減慣れてください」と沙希は苦笑した。
「それで?何が“そっか”なんです?」
「あー・・・ほら、ののかちゃんがすっごい戸惑って手振ってさ、真っ赤になって出てっちゃった理由がね」
机に顔を付けたまま沙希の方を見る。
冷たさが心地いい、とくつろぐ視界の中で、沙希がふむと頷いた。
「お嬢様ってあんまり手振らないのかもしれないね」
良く見ればクラスメート同士も、あたしに文句付けてきた宇佐美さんでさえも、
みんな小さく腰をかがめるごあいさつ、しかも言葉は「ごきげんよう」だ。
本当に小さなこと一つ一つに住む世界の違いを感じてしまう。
「あたしホント庶民だなー」
と笑いながら呟いたら、沙希は「まったくです」と悪びれもなく頷いた。

