「と、とりあえず大丈夫だから!ののかちゃんはバイオリン頑張ってね」
「うん、ありがとう、真城さん」
「本も片付けておくよ」
「また来週ねー」とひらひらと手を振って見せたら、彼女はなぜか固まった。
それから、自分の右手の手のひらを少し見つめて、ぎこちない動きで「ごきげんよう」って手を振った。
ののかちゃんはそのまま顔を真っ赤に染めると、少し駆け足で図書館を出て行ってしまった。
え、何それ。
「ああら、まだお残りになるの?おバカさんは大変ねぇ」
その後ろ姿に呆気に取られていると、右上から嫌味ったらしい声が掛かって顔を上げた。
またこいつだよ、とあたしはため息をつく。
彼女は、あたしを気に入らないという割には事あるごとにこうやって話しかけてくるのだ。
「何か用?お帰りになるんでしょ、あなた様は」
うんざりしながら振り向いたら、やっぱり宇佐美さんと伊集院さんと風間さん。
悪のリーダーは、「いいえ、別に?」と髪を掻きあげた。
「ただ少し、感動いたしましたの」
「感動?」
「えぇ、野々宮さんのご慈悲に。良かったわねぇ、優しいお育ちの方がいらっしゃって」

