まだ10分にも満たない付き合いの彼女だけど、この子はずいぶんとおっとりしている。
何が起きたか気付かないようで、目を丸くしたままあたしと沙希の顔を見比べるから誤魔化すしか出来なかった。
お嬢様にあんな行為見せられるか。
彼女はやっぱり不思議そうにしていたけれど、何かを思い出したかのように「あ」と呟いた。
「自己紹介してなかったよね?
私、野々宮 まどか(ののみや まどか)。よろしくね」
野々宮さんか、と聞いたばかりの名前を心の中で反復した。
柔らかい名前が、すごく彼女にぴったりだと思った。
うんうんと一人納得して頷くと、きょとんと彼女は首を傾げる。
だからあたしもにっこり笑って返事をした。
「あたしは、真城 鈴。知ってると思うけどね」
話しかけてくれて嬉しかったよ、と言ったら、
野々宮さんは目尻を下げて、両手で抱えている教科書をきゅっと抱きしめた。
少しだけ頬を染めた彼女の横顔を見ながら、
この子は由美と正反対のタイプだけど、由美くらい仲良くなれる気がした。

