先輩が譜面を見ている間、わたしは思う。
…結局、学園祭でれなかったなぁ…。
けっこう、楽しみにしてたのに。
「いいぞ。」
先輩の合図がでたとき、わたしはスカートのポケットの中にある、ケータイの録音ボタンをタッチした。
『♪~♬~♪~♬~♪~♬~♪~♬~♪~』
ゆっくりとした、綺麗で、少し悲しげなメロディーを奏でる先輩。
やっぱり、先輩の伴奏は心地良くて、歌いやすい。
『最初は ただ退屈で
毎日が 憂鬱だった
まわりの ことなんて どうでもよくて…
でもいつの間にか わたしアナタの色に
染まってた───…
サヨナラを 言えない自分
会えなくなるための 言葉なんて
サヨナラを 言わなくちゃ
でも 言いたくないの
だからね 合図を 出してから行くね──…』
これが、わたしの気持ち。
これが、わたしの合図。
届かなくていいの。
ただ、心にしまって置いて。
『毎日が 少しずつきらめいて
アナタしか 見えなくなった
告白なんて してもどうせ フられるって
わかりきったこと だったけど
それでもわたしは 言い続けるよ──…
《アナタが好きでした》
それはサヨナラの合図
本当に ずっとすきだったの
でも これ以上 アナタを縛りたくないから
わたしから 合図を出すね───…
…フられるのは ツラいよ
それが何度目だとしても
だけどそれくらいしか 言えないから───…
わたしは アナタに 言うよ…
《ありがとう そして──…サヨナラ》
』
『♬~♪~♬~♪~♬~♪~♬~♪~♬~』
残りは、先輩の伴奏だけ。
良かった、無事に歌えた…。
『♪~♬~♪~♬~♪~♬────…♬♪…』
ピッ
スカートのなかのケータイの録音停止ボタンをタッチした。
「…一ノ瀬先輩、ありがとうございました。」
「────…や、別に。」
「…先輩。」
「…なんだよ。」
「…嘘でもいいんで、好きって言ってください。」
…これで最後。
最後だから、せめて…
「…オレは───…
お前なんか、大ッ嫌いだ。」
あぁ、やっぱりね。
「…ですよねー!!」
わたしは笑った。
精一杯の笑顔で。
「それじゃ!!」
「おい、高条…!!!」
先輩の声は、だんだんと遠くなっていった。