ガタッ
わたしが勢い良く立つと、周囲の視線はギターの人からわたしに移った。
わたしはサイドの壁をさわり、素早く壁の質を確かめ、スピーカーの位置を変え始めた。
さっきの先生が出てきて、わたしを止めようとする。
室内は、いっきにざわついた。
「キミ!!
なにしてるんだ、止めなさい!」
うるさいなぁ。
「…。」
わたしは黙々とスピーカーの位置を変えていった。
しかし、わたしが変えたところを先生が戻そうとする。
「…触らないで!」
つい、大きな声が出た。
そして、先生の手が止まる。
やっとおとなしくなったか。
そしてわたしは、ギターの人の方へと向かった。
「え、ちょ…なに!?」
「…ギター。」
「は!?」
「ギター、見せてください。」
「な、なんで…っておい!!」
わたしはしびれを切らし、強引にギターのコードに自分の目をよせた。
…やっぱり、このコード切れかかってる。
だから音ちっちゃくなったんだ。
わたしは隣のコードがあるであろう部屋に向かい、コードを取ってくると、ギターのコードをとり、付け替えた。
「…よし!!
ギター、ならしてください。」
「え?────♪~♪~…すげぇ!!直った!!」
そりゃあ…直したんだから。
「ねぇ、キミ名前なんて言うの!?
すごいね、なんで直ったの!?」
…そんなこともわからないのか…。
「ほら、皆さん演奏待ってますよ?
─────…ね、皆さん!!」
わたしが他の体験入学にきた子達に問いかけると、すぐに拍手が帰ってくる。
この人たちも、もともと下手なワケじゃないのだ。
「それじゃあ、最後の曲です。
この歌は、今YouTubeで人気急上昇中の《わふわふ》さんの曲です。
皆さん、ご存知だと思います!!
口ずさみながら聞いてください!
最後まで聞いてくれて、ありがとうございました!!
それではいきます!!
───────…『折り花』」
『♪~…♪♪♪~…♪~♪~♪~♪~♪~』
「きゃぁぁぁぁぁあああ!!」
…この悲鳴は悲鳴ではなく、黄色い声的な…ものでしょうかね。
そうか、こんなにも人気だったのか。
…わたし。
『わふわふ』は、つまりわたしだ。
スタジオで曲をとり、YouTubeに投稿。
それはわたしの趣味のようなものだった。
ソレを繰り返すうち、人気が出てきちゃって。
この人達が必死に歌っているのは、わたしの曲。
そう思うと、とても嬉しかった。
歌いたくて、身体がうずく。
気がつけばまた、席を立っていた。


