その日の遊らん飛行は午後、別の小型機で行われることになり、達也の操縦する小型機は乗客を下ろすと、そのまま格納庫に移動させられました。機体の点検をする必要があったからです。

午前中混乱した飛行場も、午後には普通のスケジュールにもどりました。いつものように、何機もの航空機が飛行場を飛び立って行きます。

保奈美はなおっちに向かって言いました。

「きょうは外に出ちゃだめよ。わかった?なおっち」

そして、なおっちを空港事務所にのこし、訓練飛行のためスポットに向かいました。

スポットから誘導路をタキシング(走行)し滑走路に出ても、いつも見送ってくれるなおっちの姿はありません。保奈美はちょっとさみしく思いました。

飛行場を離陸した保奈美の小型飛行機は、しばらくの間海岸線にそって飛行していましたが、やがてゆっくりと右旋回をすると、海岸から離れて30キロメートルほど南にある離島に機首を向けました。

 そして飛行場から10キロメートル離れた地点までくると、保奈美はマイクのプレストーク・ボタンを押して、航空管制官に通報を始めました。

「レディオ管制、JA3021です。飛行場から南南東10キロメートルを飛行中です。高度は600メートルです。周波数を離れます」

「JA3021、レディオ管制です。了解しました。グッドラック」

通報を終えた保奈美の操縦する小型機は、訓練目標の離島に向かって飛行を続けました。


 夕方、オレンジ色に輝く太陽の光を尾翼に受けながら、一機また一機と航空機が着陸してきます。

保奈美の操縦する小型飛行機の窓から滑走路の明りが見えてきました。管制官と連絡を取りながら、保奈美は慎重に進入を開始します。

小型機の車輪がどんと音をたてて地面にタッチダウンすると、機体はがたがた音を立てながら滑走路を走って行きました。

いつもなら、横の草むらになおっちの白い影がみえるのですが、きょうは無理だなと思いながらも、保奈美の視線は自然に滑走路横の草むらにいってしまいます。

「あっ、いた!」

いました。滑走路のすぐ横の草むらの中に、白い影がぽつんと見えました。なおっちはやはり保奈美の帰りを待っていたのです。