誘導路を過ぎ、スポットで機体を停止させると、なおっちがスポット横の草むらまで走ってきました。

「ただいま、なおっち」

操縦士席から出た保奈美はなおっちを抱き上げると

「なおっち、待っていたのね」

と言い、なおっちの頭をなでてやりました。

 保奈美がスポットに降り立ったあとも、つぎつぎと小型飛行機が飛行場に下りてきました。

保奈美はなおっちを抱いたまま、着陸ライトを点灯して夜空から舞い降りてくる小型飛行機をいつまでも見つめています。

着陸ライトの後方には、宵のヴィーナス金星がますますその輝きを増していました。


9機体の中

 このところ春のようなポカポカ陽気が続いています。きょうもなおっちは、とことことスポットまで歩いていきました。

スポットには何機もの小型飛行機が駐機しています。

 小型飛行機の間を歩いていたなおっちは、保奈美がいつも操縦する小型機の窓が少し開いているのに気づきました。

なおっちは操縦席の窓から入りこむと、後ろの座席にすわり内部を見渡しました。小さななおっちには小型飛行機の室内が大きく見えます。中は暖かく、とても気持ちがよかったので、なおっちはそのまま眠ってしまいました。

 どのくらい経ったのでしょうか。ブルン、ブルンとエンジンのスタータの音が操縦室内に響きわたりました。なおっちが目を覚ますと、操縦席で保奈美が操縦桿をにぎっています。

 「レディオ管制、JA3021です。離陸の準備を終えました。左旋回で高度600メートルまで上昇します」

 「JA3021、レディオ管制です。風は150度方向から3メートルです。ランウエイ イズ クリアー(滑走路に障害物はありません)。8キロメートルの外で通報してください」

 「レディオ管制、JA3021です。ランウエイ イズ クリアー。8キロメートル外で通報します」

 誘導路から滑走路に出た小型機は、バリバリという音をたてながら大空に向けて離陸を開始しました。