彼の名前を知って。

彼のクラスを知って。

彼の席を知って。




少し知った気になっていた。




1人で盛り上がって気持ちが高まっていた。




だからあの日。


誰も居ない放課後、彼の教室へ行った。


誰も居ない教室で、彼の席に座った。




『これが●●君がいつも座っている席か…』

なんてストーカー染みた事を思っていたけど、

それについて気持ち悪いと気づかなかったのは、

小学生ながらにそれだけ恋に盲目だったから。





夕日に照らされた彼の机を見ると、いくつか落書きがされていた。


彼が書いたものなのか、それとも友達が書いたものなのか。


どちらにしろ、年末の大掃除の日に先生に注意されて全部消させられるのだろうな………




先生に怒られて、消しゴムでゴシゴシと落書きを消す●●君を想像して『ふふっ』と笑ってしまった。


「…………」



私は自分のカバンから筆記用具を出して、その中にある一番お気に入りのシャーペンを出した。


彼の机の空いているスペースに文字を書く。




その時は、ただ彼に私の存在を見てほしくて……


彼以外の人がこれを見て大騒ぎするのではないかとか、

名前を見られて『浅岡さんって●●君の事好きなんだって~』とからかわれるのではないかとか、

その私の存在である名前を書き忘れている事とか、


全然考えてなくて真っ直ぐな気持ちだけを想っていた。







その後、ちょっと期待して彼の反応を待っていたのに変化がなく、
名前を書いていなかった事に気づいて、

でも卒業まで、私は再度彼に告白する勇気も無く、ただ見続けるだけで終わった。