「グラントさん、分かりましたよ。本当は嫌なんですけどね。でも、君と惟さんの関係も知ってるし。その顔じゃ会うまで諦める感じじゃないし……」


「拓実様、院長もお忙しい方です。あまりお時間は取れないのですし、待たせるのは失礼にあたります」


「分かってるよ、雅弥。なので、グラントさん。仕方がないから、僕が帰ってくるまで亜紀ちゃんの様子見ておいてください」


「一條さん……」



拓実の言葉が信じられないのか、アンジーは思わず間の抜けた表情を浮かべることしかできない。そんな彼の顔を見た拓実はクスリと笑うと言葉を続けている。



「あ、でも亜紀ちゃんに変なことしないでくださいよ。それから、僕はサッサと帰ってきますからね。だから、それまでの留守番です。勘違いしないでくださいよ」


「分かっています。でも、彼女に会うことを許してくれて、本当にありがとうございます」



今の亜紀が眠っていることをアンジーは知っていない。だからこそ、彼女と話すことができるのではないかという期待を込めた声で拓実に感謝の言葉を告げる。そんな彼に意地悪そうな視線を向けた拓実は「亜紀ちゃん、眠っているからね」と告げる。

その声に微かな落胆の色を見せるアンジー。だが、これが拓実からすれば最大限の譲歩だということも分かっているのだろう。雅弥を引き連れ、院長室へと向かう姿に深々と頭を下げることしかできない。そのまま、アンジーは静かに亜紀が眠っている病室へと足を踏み入れていた。



「亜紀……眠っているの? 目を覚ましてくれないかな?」