「ねえ、雅弥。会わないといけないの? 面倒だから会いたくないんだけどな」


「拓実様、そのようなことはおっしゃらずに。今回のことで無理をいったということをお忘れではないでしょう」



雅弥のその言葉に、拓実はますます嫌そうな表情しか浮かべない。その姿に雅弥も呆れたような顔を向けるだけ。



「拓実様、そのような顔をなさっても無駄ですよ。とにかく、院長に挨拶だけはしてください。それくらいは常識だということ、お分かりでしょう」


「わかったよ。雅弥には負けた。そのかわり、挨拶だけだよ。それでもいいよね」



そう言い切る拓実に対して、雅弥は仕方がないというような表情になっていく。しかし、そのことを口にすると間違いなく拓実が拗ねる。そう思っている彼は微かに頷くと、拓実の気が変わらぬうちにと彼の背中を押している。



「雅弥、押すんじゃないって。ちゃんと院長のところには行くから。え、ひょっとして信用していない?」


「そうですね、拓実様ですから。ですので、私もご一緒させていただきます。お嬢様のご入院に関しての手続きなどを拓実様に任せていては、どうなることか分かったものではないですからね」


「それって思いっきり、僕のことを馬鹿にしてるの? 本当に雅弥ったら遠慮がないね」



どこか拗ねた調子で拓実はそう告げている。そのまま、彼はアンジーがその場にいるのも忘れたように院長室へと向かおうとしていた。その彼の腕を思わず掴んでいるアンジー。そうされることで彼がまだいることに気がついたのだろう。拓実は大きく息を吐きながら彼に声をかけていた。