その音に、拓実は不思議そうな表情を浮かべている。なにしろ、今は午後の面会時間が始まってすぐなのだ。

こんな時間に医師が来るはずがない。看護師ならば遠慮せずに開けるだろう。そして、亜紀がこうやって病院にいるということは完全に隠し通せているはず。ならば、見舞客が来るということも考えられない。

病室を間違ったのではないだろうか。そんな思いを抱く拓実を笑うかのように、また扉を叩く音が響く。それも今度の音は先ほどよりもしっかりしている。そのとこに気がついた拓実はゆっくりと扉に近付いていた。



「一体、誰なんだろう。亜紀ちゃんがここにいるのを知ってるのは学校のメンバーだけだと思うのに……彼らが見舞いに来る可能性はあるけど、この時間だとまだ授業中のはずだし……」



そう呟きながら、拓実は病室の扉を開けている。そこに立っていた相手のハニーブロンドの髪を認めた瞬間、彼の表情は一気に険しいものになっていた。そのまま、彼の心情を暴露するような冷たい声が相手にぶつけられる。



「病室、間違ってるんじゃないの? 君がここに来る理由ってないよね。隣ならわかるんだけど」



そう告げながら、拓実は相手を威嚇するように睨みつけるのも忘れてはいない。その視線にやってきた相手が息をのむ気配がする。しかし、拓実が手を緩めるつもりは毛頭ない。彼はますます厳しい口調で言葉を続けていく。



「グラントさん、だったっけ? 僕にすれば、君の顔って見たくないんだよ。そうでしょう? あんなことしでかしてくれた人、そちらの関係者だっていうじゃない。よく、ここに来れたよね」