「そ、そうだ。何か食べる? 別に怪我したりしたわけじゃないから、何を食べても大丈夫だろうし。あ、リンゴがあるね。剥いてあげるから」


「い、今はいい……それより、お兄ちゃんお仕事中だったんじゃないの?」


「大丈夫だよ。こういう時くらいそばにいさせて。それより、もうちょっと眠った方がいいみたいだね。まだ、顔色がよくない」



そう言いながら拓実は亜紀に布団をかけてくる。そんな彼の様子を見ながら、亜紀は自由に動かせる方の手をそっと彼の方に伸ばしていた。



「ねえ、お兄ちゃん。手を握っていてくれる?」


「どうして?」


「うん……なんだか、怖い夢みちゃったの。でも、お兄ちゃんが手を握ってくれてたら大丈夫かなって」



亜紀のその声に拓実はニッコリと笑顔を向けてくる。そのまま、ギュッと彼女の手を握った彼は、また頭をポンポンと叩いていた。



「亜紀ちゃんは甘えん坊なんだね。でも、それだけ僕のこと信用してくれてるんだ」


「当り前じゃない。お兄ちゃんだもの」


「そうだね。じゃあ、お兄ちゃんは妹が眠るまでそばにいてあげよう。怖いことなんてないから、安心して眠ってね」



拓実のその言葉に亜紀は安心したように目を閉じる。そのまま深い眠りについた彼女を優しく見守る拓実。その時、遠慮がちに病室の扉を叩く音が聞こえてきていた。