たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~

惟がどこか必死になって頼んでいる。そのことを感じている亜紀だが、どうしても首を縦に振ることができない。

それはこの場で自分が離れたら、惟を失ってしまうのではないかという思いがあるからだろう。なにしろ、目の前にいるのは、先日も彼と一緒にいた相手。

たしかに、惟の口から関係ないとハッキリと告げられた。それでも、ここまでやってきているということに亜紀の中で一抹の不安が生まれている。

だからこそ、彼女はこの場を離れたくない。そう思い、惟の言葉を頑強に拒んでいる。そんな二人の押し問答を見ていた千影の様子が変わっていく。

彼女が持っていたバッグの中から何かを取りだす。それが光を浴びて銀色に輝いている。そのことに気がついた亜紀は、本能的に身の危険を感じていた。

この場は逃げないといけない。頭ではそう思うのだが、足が地面に縫い付けられたように動かない。そんな彼女に向かって、千影は真っ直ぐに突っ込んできていた。



「あなたがいけないの! あなたみたいな子供が邪魔するなんて許せないの! どうして、私の邪魔をするのよ! あなたなんて、いなければいいのよ!」



バサリとバッグが落ちる。その場を通りかかった生徒の悲鳴が聞こえる。そして、亜紀の目には千影の姿がスローモーションのようにゆっくりと入ってくる。

彼女の手にあるものが何なのか、今でははっきりと分かる。だというのに、体は麻痺したように動かない。刺されるんだ。そう思い、諦めたように目を閉じた彼女は痛みが襲う瞬間をただ待つことしかできなかった。